当記事では、アニメ製作会社「GONZO」が手掛けた『蒼の彼方のフォーリズム』の監督の「追崎史敏さん」、キャラデザを担当された「中野圭哉さん」、そして、原作監修を担当された「鈴森さん」に当時の様子を振り返る形でお話しを伺わせていただきましたので、その模様をお届けしたいと思います!
アニメ製作会社「GONZO」設立30周年!
アニメ製作会社「GONZO」が2022年9月に30周年を迎えることとなりました。その「GONZO」が手掛け、2016年に放送された『蒼の彼方のフォーリズム』の制作者の方々にインタビューができる機会をいただきましたので、その模様をお届けいたします!
『蒼の彼方のフォーリズム』インタビュー!
制作当時の内容を交えながら、監督を務めた「追崎史敏」さん、キャラクターデザインを担当された「中野圭哉」さん、原作監修を担当された「鈴森」さんに当時の様子を振り返る形でお話しを伺いました。
登壇された方々のプロフィール
<追崎史敏監督>
アニメーター。アニメーション演出家・監督。株式会社エンカレッジフィルムズの代表取締役を務めている。
代表作は『カレイドスター』『ケロロ軍曹』『ロミオとジュリエット』『えとたま』『であいもん』など。
<中野圭哉さん>
アニメのキャラクターデザイン・総作画監督を担当。
『蒼の彼方のフォーリズム』をはじめ、『TIGER & BUNNY』や『推しが武道館にいってくれたら死ぬ』などの作画も担当されている。
<鈴森さん>
『蒼の彼方のフォーリズム』のキャラクターデザインと原画を担当。アニメでは原作監修を担当した。
放送当時を振り返って
放送から6年経ちますが、当時のアニメ化するまでの経緯について教えていただけますでしょうか?
鈴森さん—— 原作ゲームを発売する前に「GONZO」さんと「sprite」の間でアニメ化についてお話させていただいていました。そして「GONZO」さんが制作していただけるという話の流れになり、”ゲームを発売する前にアニメ化の発表をする”という形になりました。
その発表でかなり話題になりましたよね!
鈴森さん—— だいぶ珍しいことでした。その後にメインの制作の方々が続々と決まっていきました。脚本に関しては、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『けいおん!』などを手掛ける「吉田玲子」さんに決まり、その後、追崎監督に担当していただけることが決まりました。
また、「どういうアニメにしたいか」と聞かれた際に「恋愛要素の強い作品」にするのか「フライングサーカスを魅せるスポーツ要素の強い作品」するのか判断を迫られたので、「フライングサーカス重視でお願いします」と伝えました。
それは鈴森さん自身がおっしゃったんですか?!
鈴森さん—— アニメ関係者みんなで決めたと記憶しています。 「フライングサーカス」を魅せて行くスポーツ要素の強い作品にする方向になりました。その「フライングサーカス」の空を縦横無尽に駆ける難しいアクション部分を魅せることとなり、追崎監督に決まって嬉しかったのを覚えています。
追崎史敏監督—— 鈴森さんやスタッフの方から最初お話をいただいた時、「カレイドスターのような熱いスポ根アニメが作りたいんです!」と強くお願いされたので、引き受けることにしました。
鈴森さん—— あの時メインスタッフ一同、『カレイドスター』を何処か意識していた部分もあったかもしれません。
原作の印象について
追崎監督と中野さんは『蒼の彼方のフォーリズム』の原作ゲームの第1印象はいかがでしたか?
追崎史敏監督—— 恋愛要素が強いのかなと思いきや、実は軸はそこではなく、スポ根です、と言われてなかなか面白い作品だな…というのが最初の印象です。
中野圭哉さん—— 私は「恋愛要素」のある作品だと思っていましたね。(笑) 本作を「恋愛要素」のある作品でやりたかったわけではないのですが、原作の絵のイメージ的にあるのかなと思っていましたね。
「sprite」の第1作目『恋と選挙とチョコレート※1』の作品の流れを組むのであれば、恋愛要素があまりなかったことにファンは驚きですよね。
※「sprite」から2010年に発売された第1作目のビジュアルノベルゲームであり、2012年7月にアニメ化された作品。略称は「恋チョコ」。
アニメのキャラクターデザインについて
中野さんにお伺いしますが、実際にキャラクターデザインを起こす際にアレンジとかはされましたか?
中野圭哉さん—— 実はキャラクターデザインに関しては鈴森さんからアニメ用にわかりやすくされた図解の資料を先にいただいていまして、それを参考にしつつキャラクターデザインを仕上げましたね。
その資料は鈴森さんの方から直接共有された感じですかね?
中野圭哉さん—— そうなんですよ。鈴森さん描き下ろしの資料だったんですよ…!
鈴森さん—— その資料には細かいこだわりや設定などを盛り込んだんですが、中野さんがそれを全部くみ取って描いていただけました!
中野圭哉さん—— その資料の絵だけでもアニメに使用できるレベルでしたね…!
鈴森さん—— そんなことはないですよ。今でも「あおかな」の絵を描いてますが、実は中野さんのキャラを参考にさせていただくこともあります。
中野圭哉さん—— 恐縮としかいいようがないです。(笑)
追崎史敏監督—— 当時は分からないところ全て絵にして説明したりしていましたね。
中野圭哉さん—— そうですね。あと直接内容を聞けるタイミングが多かったですよね。
鈴森さん—— そうでしたね。私自身が設定段階から参加してて本読みにも全て参加してました。
追崎史敏監督—— なかなか原作側の作業者とやり取りをするのは難しいのですが、鈴森さんと直接やり取りすることができたので、よくわからないという問題はあまりなかったですね。
鈴森さん—— 原作側とアニメ側が密接的に関わるのはなかなかないですよね。
直接的にやりとりすることができるくらい雰囲気の良い現場だったんですね。
鈴森さん—— すごくいい雰囲気で、和やかに進みました。
中野圭哉さん—— キャラクターデザインに関しては、今だったらこう描くなみたいなところはたくさんあったりします。
何か変えたい部分があるということですかね?
中野圭哉さん—— そうですね。全体的にリファインしたいです。(笑)
アニメ化の話をGONZOから貰った時の経緯
鈴森さんは当時「GONZO」さんからお話をいただいた際はどう思われましたか?
鈴森さん—— 当時は本当に嬉しく、ありがたいお話をいただいたと思っています。私自身「GONZO」さんが制作した『青の6号』や『戦闘妖精雪風』が昔から大好きだったんです。
実現した瞬間は思わずガッツポーズするくらいの喜びだったのではないですか?
鈴森さん—— 本当にそうですね。制作していただけるんだという気持ちでいっぱいでしたね。
アニメから原作ゲームへ与えた影響について
アニメ側から原作に与えた影響ってありますでしょうか?
鈴森さん—— 当時は中野さんの作画や追崎監督のレイアウトに感銘を受けて、そのレイアウトを参考にさせていただく許可とかを追崎監督に取ったりしました。「フライングサーカスってこう描けばいいんだ」と感激しました。
追崎史敏監督—— 当時から鈴森さんはものすごく貪欲な方で、アニメの制作工程について絵コンテやレイアウトのことなど、色々質問いただいたりやりとりをしてました。いいところはすぐに自分の仕事に反映させようという向上心がすごかったです。ぜひ、アニメーターとしてこの業界に来て!と思いました(笑)
鈴森さん—— しつこいぐらい追崎監督の休み時間に訪ねて「このカットかっこいいですね」とか言ってました(笑)
アニメのインスピレーションを受けて原作のカットなどに活かす形になったんですね。
鈴森さん—— ほとんどがそうですね。アニメの作り方を教わったという点が大きな影響でした。”アニメの作り方”や”見せ方”にとても感銘を受けたので、それを参考にしつつ『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』を制作しました。
ゲームの作り方は以前に比べてかなり変化があったということですかね?
鈴森さん—— はい、だいぶ変わりました。ゲームを作るというより、良いシーンを作り込んでいく点に力を注いでいました。その結果、「フィルミックノベル」というジャンルで『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』を制作しています。
追崎監督は「ビジュアルノベルゲーム」に馴染みはありましたでしょうか?
追崎史敏監督—— 全く通ってこなかった道だったもので…どんなものか全然わからず…。
鈴森さん—— 追崎監督と私で直接やりとりしてました。
追崎史敏監督—— そうですね。「フライングサーカス」という競技についてもルール含めて色々難しくて…。
鈴森さん—— 「フライングサーカス」を言葉で説明するのはとても難しいんです。
追崎史敏監督—— それぞれの選手がどう言う動きでどういう試合展開になっていく、というのを全試合、図解とメモで教えてもらいながらコンテ作業していました。
鈴森さん—— 当時は本当に追崎監督への負担が凄かったと思います。「フライングサーカス」を絵コンテに起こせるのは追崎監督しかいないと思ってました。
中野圭哉さん—— 途中なんか人形を使って説明してましたよね。
鈴森さん—— やってましたね〜。ガンダムとザクにプラ板で羽をつけて動かしながらこうやりますって説明してました。ホワイトボードとかも使って磁石を使いながら説明してました。
「フライングサーカス」についてどのように描こうと思ってましたか?
追崎史敏監督—— 基本は原作のビジュアルをどう動かしていくか、がベースですが、飛んでいる時のスピード感やテンポ感、展開をどう分かりやすく見せれるか、という所を特に気をつけていました。
鈴森さん—— CGカットと作画カットの使い分けが違和感なく自然な感じがしてとても良かったです。
確かに視聴していても全然違和感なく観ることができていました。
中野圭哉さん—— 主に「フライングサーカス」に関するところはCG作画に合わせて制作してもらっている感じでした。
追崎史敏監督—— 顔のアップを見せるカットは作画ですが、それ以外のロングカットや、フルスピードで動くキャラを3DCGのフルモデルで作成しています。
そうなんですね。中野さんにお伺いしますが、ご自身で作ったキャラクターが実際にCGで動いているのを見てどう思いましたか?
中野圭哉さん—— そうですね〜主に「フライングサーカス」の試合をしている部分にCG作画が用いられていたので、キャラクターの顔など細かい部分は映ってなかったですね。ただ、CG作画の部分を全て手書きでやったら間違いなく大変だっただろうなと思ってます。(笑)
前半でもお伺いしたと思いますが「恋愛要素」を取り除こうと思った理由について教えていただけますでしょうか?
鈴森さん—— ゲームの尺幅とは違ってアニメの尺幅に「フライングサーカス」のスポーツ要素入れるとなった時、「フライングサーカス」を中心に見せた方がこの作品の良さが伝わりやすいと言う話になったと思います。幸いなことに、以前『恋と選挙とチョコレート※1』を制作させていただいていたので、いかにアニメの放送時間の尺幅が厳しいかというのは知っていました。結果的には、原作ファンの皆様からも特に最終話が凄くよかったという感想もいただいて、フライングサーカスを重視したのはよかったのではないかな。と思っています。
※1…『恋と選挙とチョコレート』は「sprite」が手掛けたビジュアルノベルゲーム第1作目の作品。2012年7月にアニメとして放送された。
追崎史敏監督—— 鈴森さんは感覚が凄いなと思ってまして、中々自分で作った作品の要素を手放したくない方が多いのが普通なんですよね。でも、そこを前作の経験があるとはいえ、スパッと判断できるのは凄いことだと思います。ゲーム、漫画、アニメ、それぞれ表現の仕方が違うので、その違いをきちんと理解してくれている原作者さんはとても貴重です!
なるほど。昨今、ビジュアルノベルゲームのアニメが少なくなってきていますが、その点についてはどう思われますか?
鈴森さん—— まず、ノベルゲームをアニメにすること自体が難しいことなんだと思います。一般的なアニメを制作するのに比べて、難易度が高い気がしています。
追崎史敏監督—— 最近は「小説家になろう」系の異世界アニメ作品が多いですね。
中野圭哉さん—— なら、ノベルゲームで異世界転生すれば人気が出るのでは…!?笑
一同 (笑)
鈴森さん—— その他にも世の中のトレンド的に「恋愛」をしたくないんじゃないかなという風潮があったり、統計データ的なものも見かけるので、そういった要因も絡んでいるのではないかと思います。それこそ、2000年代はアニメとゲームを含めて「美少女」の恋愛もので溢れていたと思うのですが、それすらも通り越して「能力系ハーレムもの」に徐々にシフトしていったのかなと思いますね。
確かに最近は異世界転生もののジャンルをよく目にしているような気がしますね。
「GONZO」が30周年を迎えるにあたって
最後に「GONZO」が30周年を迎えるにあたって一言お願いします。
鈴森さん—— 学生時代から「GONZO」さんが好きだったこともあり、自分がその歴史の一部に関われていることが大変嬉しく思います。これからも頑張っていただきたいです。
中野圭哉さん—— そうですね〜。私はぜひ一刻も早く「GONZO」さんが『あおかな』のアニメ作りを再開して、『あおかなR』を作っていただきたいです。ぜひよろしくお願いします!(笑)
ファンへ向けてのメッセージ
『蒼の彼方のフォーリズム』を応援し続けているファンの方々へメッセージをお願いします。
鈴森さん—— アニメのおかげで、日本のみならず海外にもファンが出来ました。それがすごくありがたいことでした。今でも多くのファンの方々に支えられているおかげでもあり、本当にずっと応援していただいていることに大変感謝しています。引き続きファンの期待に答えられるように頑張っていきたいと思います。
中野圭哉さん—— 『あおかな』のファンの方って結構熱心な方が多かったので、正直なところ絵に関して納得してもらっていたかという点がずっと気になっていました。やはり原作の絵が一番でしたので…。私から一番伝えたいこととしては「原作を大事にしている」ということです。ファンが大事にしていることをこれからも一番大事にしていきたいと思っています。
追崎史敏監督—— アニメ制作当時は、どこまで納得してもらえているか不安の日々でしたが…あらためて、素晴らしい原作に巡り合わせていただいたことに、ただただ感謝しています。ありがとうございました。
『蒼の彼方のフォーリズム』作品概要
あらすじ
反重力を発生させるシューズ、通称“グラシュ”の発明により、人が簡単に空を飛ぶことが出来るようになった世界。久奈浜学院に転校してきた倉科明日香は、同級生の鳶沢みさき、日向晶也達との出会いを通じて、グラシュを使った新興スカイスポーツ『フライングサーカス』(通称FC)を知り、その魅力に惹かれていく。学院のFC部に入部した明日香は、仲間達と共に、時にはぶつかり、励まし合い、それぞれの目標に向かいながら、強力なライバル達に立ち向かっていく――。―目指すは、夏の大会。
公式サイトから引用しています。
スタッフ
監督 | 追崎史敏 |
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キャラクターデザイン | 中野圭哉 |
シリーズ構成 | 吉田玲子 |
キャラクター原案 | 鈴森 |
プロップデザイン | 清水奏太郎 |
総作画監督 | 中野圭哉/小池智史 |
アクション総作画監督 | 鯉川慎平 |
美術監督 | 氏家 誠 |
色彩設計 | 村田恵理子 |
CGディレクター | 井野元英二 |
撮影監督 | 荻原猛夫 |
編集 | 齋藤朱里 |
音響監督 | 森下広人 |
音楽 | Elements Garden |
制作 | GONZO |
原作 | sprite |
キャスト
キャラクター名 | 担当声優 |
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倉科明日香 | 福圓美里 |
鳶沢みさき | 浅倉杏美 |
有坂真白 | 山本希望 |
市ノ瀬莉佳 | 米澤 円 |
日向晶也 | 逢坂良太 |
青柳窓果 | 若林直美 |
青柳紫苑 | 近藤孝行 |
佐藤院麗子 | 種田梨沙 |
真藤一成 | 興津和幸 |
保坂実里 | 儀武ゆう子 |
各務 葵 | 緒方恵美 |
乾 沙希 | 高森奈津美 |
イリーナ・アヴァロン | 水橋かおり |
有坂牡丹 | 生天目仁美 |
権利表記
©️sprite/久奈浜学院FC部