「ドラクエXI」など有名タイトルや「リネージュ2レボリューション」などスマホアプリにも採用されているゲームエンジン「Unreal Engine4(アンリアルエンジン4)」。そんな今やゲーム開発者にとっては手放せないツールの一つである「UE4」の躍進などについて、EpicGamesJapan代表の河崎高之氏に伺った。
EGJ代表・河崎高之氏について
▲EpicGamesJapan代表・河崎高之氏
はじめに:自己紹介など
まずは過去のご経歴やEpicGamesに入ったきっかけなど、改めて自己紹介をお願いします。
僕は社会人になって最初はゲーム業界外の会社にいたのですが、2002年に初代Xboxを出すにあたって人を集めていたマイクロソフトに、転職という形で入ったのがゲーム業界との始まりですね。
子供の頃からゲームが好きで、ゲームの仕事ができればいいなと思っていたところに、ちょうどという形です。多少英語もできたので、自分のスキルを活かせるかなというのもありました。
だから今年でゲーム業界に入って16年くらいになりますね。
マイクロソフトではどのようなことを?
いわゆるプロデューサーのようなことをやっていました。
マイクロソフトが自分たちで作るXboxのソフトに関わっていて、「ブルードラゴン」「ロストオデッセイ」「ブリンクス・ザ・タイムスイーパー」「ファントムダスト」など、世に出ただけでも初代と360合わせて20〜30本のタイトルに関わってきたかと思います。
そのあと2009年に一度スクエアエニックスに移りました。
そこでもプロデューサーだったんですが、去年出た「ニーア オートマタ」の前作にあたる「ニーア レプリカント・ゲシュタルト(PS3・Xbox360)」などに関わりましたね。
©︎SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.Developed by cavia Inc.
EpicGamesJapan代表になったきっかけ
EpicGamesJapan(EGJ)は2009年に河崎さん自ら立ち上げたとお聞きしましたが・・・。
そうですね。
2009年末にEpicGamesが日本法人を立ち上げようとしていて、担当してくれる人間を探しているというのを人づてに聞きまして。
マイクロソフトの頃からEpic本社の人と多少付き合いがあったこともあり、応募して採用していただいたというのがEpicに入った始まりですね。
僕がEpicに入った頃にはEGJもなくて、会社の立ち上げのところから始めました。来年で丸10年になりますね。
当時はお一人だったんですか?
そうですね。一番はじめは一人で会社を登記したり、ハンコ作ったりというところからやりました。今では13名くらいメンバーが増えています。
EGJ・アンリアルエンジンについて
EpicGamesJapanの活動内容
それでは次にEGJの主な活動内容についてご紹介をお願いします。
今は大きく分けて二つありますね。一つはUE4など「ゲームエンジンに関するビジネス」です。
もう一つは「フォートナイトのパブリッシング」、マーケティングやローカライズに関することですね。こっちは今年に入ってからです。
▼フォートナイト公式CM
ゲームエンジンの方はさらに細かく三つに分かれていて、いわゆる「BtoB(プロの開発会社・パブリッシャー向けのライセンス営業)」が一つ。
次に、我々は「エンタープライズ」と呼んでいるんですけども、建築系だったり自動車だったりといった、ゲーム以外の分野でUE4を使いたい人向けのものが一つ。
それから『EULA(ユーラ)*版』という、どなたでもダウンロードして触っていただける無料のバージョンがあるので、そちらを学生や一般の方などアマチュア向けに展開していくのが一つといった感じですね。
*EULA:End User License Agreementの略
学生がUnreal Engineを使って作ったゲームなども時折話題に上がっていますよね。
そうですね。いろいろな賞などをいただけているようで嬉しく思っています。
エンジンやフォートナイトの話だと、開発は本社の方で行なっていて、日本では主にライセンス営業やライセンスを購入していただいた方向けの技術サポートを行なっています。
▶︎学生作品とは思えないハイエンドなゲームがずらり。学校ごとの特色も出た、名古屋のUE4を用いたゲーム3作を紹介(EpicGames公式)
ゲーム外だと宇宙飛行士の訓練などにも使われているとか。
そうですね。NASAが作られたものがありますね。
あとは最近だと自動車メーカーで、「カーコンフィギュレーター」と呼ばれているんですけども、自分で選んだ車種や色やオプションなどに基づくCGモデルが出てくる仕組みを丸ごとUE4でやっていたりしますね。
モデルルームなんかで使われたり、社内でデザインチームやマーケティングチームに使っていただいたりとか。
▼BMWで実際に導入されている様子
「UE4=ゲームエンジン」というイメージがありますが、ゲーム分野以外でも多岐にわたって使われているんですね。
2013年頃から「EULA版」を提供するようになったことで一気に裾野が広がった感じですね。
それまではゲームエンジンに縁がなかった方にも、「これを使えばもっとビジネスをよくできるんじゃないか」というので興味・関心を持っていただけるようになったんじゃないかと思っています。
Unreal Engineとはどういったものなのか
それではこの話の流れで、改めて「Unreal Engine」の特徴などについてご紹介をお願いします。
はい。
そもそも”ゲームエンジン”というものはビデオゲームを簡単かつ効率よく作るためのツールセットなんですが、昔のゲーム開発ではそういった部分も作品ごとに一から作り上げるのが当たり前でした。
ただゲームジャンルはいろいろあっても、すべての開発の共通で必要になるものはありまして。例えば絵や音、コントローラーとの連動などですね。
そういった、あらゆるゲームに共通する基幹部分を切り出してパッケージすることで、一から作成し直すのではなく、流用できる部分は流用していくというのが”ゲームエンジン”のコンセプトですね。
確かに作品ごとにやり直しているのでは非効率な印象を受けますね。
ええ。
こういったゲームエンジンの設計思想に関して、我々はよく「車輪の再発明を避ける」という言い方をしますね。
車輪の形は丸が最適というのは分かりきっているのですが、昔の”ゲームを一から作る”という仕組みは、「車輪は四角がいいのか。それとも丸がいいのか」というところから始めなおすため、どうしても無駄が多くなります。
そういった無駄な工程を省いて、最初から丸い車輪を使おうというのがゲームエンジンの誕生した背景にあるわけです。
そういった状況の中で生まれた「Unreal Engine」の強みはどういった部分なのでしょう?
UEはゲームエンジンの中でも特に古い歴史があって、今では4まで出ています。
よく言われる特徴は「グラフィッククオリティが良い」「リッチなゲームに仕上がる」というものなんですけど、我々が一番意識しているのは「いかに効率よくゲーム開発を進めていただけるか」という点です。
例えばゲームを作っていく中で、企画担当やアーティストが何か変えたいと思っても、プログラマーに仕様書を持っていった上で対応してもらう必要があるため、”待ち”の状況になることが多く、どうしてもプログラマーに負荷がかかりがちです。
UE4であれば、プログラマー側に頼ることなく、企画・アーティスト側でもいじれるため、そういったプログラマーが開発のボトルネックになる状況を回避し、プログラマー以外でトライアンドエラーを繰り返すことができます。
結果的に開発効率が上がるし、クオリティ面もよくなるというのがUE4の特に意識していることになりますね。
UEは”4″になってから特に有名になったような印象ですが、3以前と大きく変わった部分などはどこになるのでしょう?
まずUEが広く使われるようになったのは3からで、その背景にはPS2からPS3、あるいはXboxからXbox360へとハードの世代が変わっていったことがありますね。
© 2001-2012 Epic Games, Inc.
求められるコンテンツやグラフィックの質が上がったことで、すべて一から自分たちで作るというのがかなり難しくなってきて、その解決策としてゲームエンジンを使うという発想が出始めたんですね。
それを受けて、2006-7年頃からEpic Games側でも本格的にライセンス事業に取り組もうという流れができてきました。EGJができたのものその一環ですね。
ただもともとは、そういったライセンスビジネスを前提として作られておらず、UEは自社の「Unreal」というシューターゲームのmodツールとして作られていました。
*modツール:ユーザーが後から自作のマップを作ったりできるツール。最近ではマリオメーカーなどが代表的。
「Unreal」を購入すると一緒にそのmodツールが付いてきていて、それを使ってゲーム会社の人が作ったもの以外のマップをユーザー側で作って、PCでいろいろな人に共有することができました。
▲現在は「Unreal Gold」としてSteamで配信
そして「Unreal」のmodツールの出来が当時ではかなりよかったらしく、外部のゲーム開発会社から「これを使うとゲーム開発が捗るからライセンス契約をしてほしい」という話をいただくようになりました。
当時は外部に向けたゲームエンジンとして作っていたわけではありませんでしたし、そもそも”ゲームエンジン”という概念すらなかったんですけどね。
そして、そういった希望を受けてから「これをライセンスビジネスに使うといいんじゃないか?」という形で始まったのが「Unreal Engine」です。
そういう経緯なので、UE3の時もXbox360向けの「Gears Of War」という自社シューターゲームを作るためのエンジンというのが前提にあって、ライセンスビジネス用というよりは「Gearsのmodツール」という感じでした。
©︎2018 Microsoft
そのため、機能的に優れている点もあったんですけど、シューター以外のRPGやアクションなんかを作ろうとすると、かなりやりづらい部分やいろいろな制約などがあったんです。
ただ、ありがたいことに多くの方に使っていただけたのでフィードバックなどがたくさん集まりました。
さらにそのタイミングで、世代がPS4・XboxOneに変わろうとしていたこともあって、「次の世代に向けてもっと汎用性の高いエンジンを提供できるようにしよう」と、設計思想を変えて一から作り上げたのが「Unreal Engine 4」です。
言ってしまえば、UE4がはじめて「EpicGamesとして汎用性を重視して設計したエンジン」「ゲームエンジンとして設計されたエンジン」になりますね。
UE3の頃にあった制約をなくす意識を強く持って作ったこともあって、UE4で一気に広まったというのが知名度が上がった背景だと思います。
昨年ですとUE4を使ったゲームでは「ドラゴンクエストXI」などが有名ですよね。国内のゲーム会社でもUE4の採用はかなり増えているのでしょうか?
▼ドラクエXIオープニング映像
そうですね。直近だと「NARUTO TO BORUTO シノビストライカー」や「僕のヒーローアカデミア One’s Justice」など、バンダイナムコさんから立て続けに出てきていますね。
ゲーム分野だとバンダイナムコさん、スクエニさん、カプコンさん、セガさん、アトラスさんなど大手企業にはほとんど使っていただいていますね。
あとはゲーム分野外のデベロッパーにご利用いただくことも多いです。
UE4のモバイルでの採用
ありがとうございます。
UE4といえば、今年の7/20にver4.20が出て、モバイルアプリやSwitchソフトなどの開発環境の最適化が進んだと拝見したのですが、そちらでの需要もやはり高まってきているのでしょうか?
▶︎Unreal Engine 4.20リリース情報(EpicGames公式)
Switchは去年の3月に出てからNintendoさんの予想以上に好調らしく、ソフトの開発をしたいという声も多いですね。
日本だと7月に「オクトパストラベラー」がUE4採用タイトルとして出ています。あとは発表済みのところで、「真・女神転生V」や「ヨッシー(仮)」などもですね。発表されていないところでもまだまだ控えていますよ。
▼ヨッシー for Nintendo Switch(仮)
スマホの方はいかがでしょうか?昨年では「リネレボ」や「HIT」が有名なところだと思いますが。
スマホアプリの開発でも採用したいというニーズは増えていますね。
数年前までの日本のスマホマーケットではシンプル・カジュアルなアクションやパズルが求められていて、
UEを使ったリッチなグラフィックのゲームを作りたい・遊びたいという需要があまりなかったのですが、おっしゃる通り「リネージュ2レボリューション」や「HIT」などをきっかけとして認知度が高まりました。
© NCSOFT Corp. © Netmarble Corp. & Netmarble Neo Inc. All Rights Reserved.
あとは、日本のスマホマーケットでかなりレッドオーシャン化*が進んで、シンプル・カジュアルなゲームを出しても既存タイトルに食い込んで行けなくなり、ハイグラフィックなどリッチコンテンツで勝負したいという需要が高まったことも理由ですね。
そういった”リネージュ2ショック“のようなものがあって、去年の夏ぐらいからスマホアプリでUE4を使いたいという声が一気に増えました。
*レッドオーシャン化:ライバルが多く、競争の激しい市場
今発表されているものは少ないですけど国内でもかなり増えていて、この間Wright Flyer Studiosさんが発表した「新・消滅都市プロジェクト」でもUE4が使われています。
▼新・消滅都市プロジェクト映像
あとはご存知だと思いますが、自社でもフォートナイトをiOS/Androidで提供しています。フォートナイトのモバイル版・Swicth版が出たことも、UE4の最適化が進んだ理由のひとつですね。
UE4を使ったアプリだと、端末のスペックによる影響が大きいといったイメージもままあるかと思いますがその辺りはいかがでしょう?
そういった問題の改善は現在も継続しています。
とはいえやっぱり端末の性能限界はあるので、パブリッシャー側でターゲットを決めて調整できるようにはしています。iPhoneだと、5s以前は切ってリッチコンテンツとして勝負するといった感じですね。
あとはUE4側で提供している機能として、古い端末ではキャラクターなどの影が完全に表示されないようにする・少し古い端末なら影が丸で表示される・最新機種だとキャラや建物の形に応じた影が現れるといった、ユーザーごとに切り分けられるものも提供しています。
こういった機能をうまく使っていただきながら、開発側でターゲットに合わせて調節してもらえるようにもしています。
ユーザーに向けてのメッセージ・抱負
それではUnreal Engineユーザーに向けてのメッセージや抱負などをお願いします。
はい。
嬉しいことにUE4もドラクエやFF7、KH3、鉄拳、ストリートファイターなど、日本の名だたるタイトルで使っていただけるようになりました。
学生さんやゲーム業界に入りたいと思っている人にとっては、UE4を覚えることがゲーム業界に入るときに自分の武器になるかと思います。
UE4を使っていただいている開発会社さんにしてみても、そうやってUEに興味を持つ人が増えれば、採用などで求める人材を見つけやすくなりますし、EGJとして引き続き、そういったいい流れの構築は継続していきたいと思っています。
UE4を覚えることで日本の大手のゲーム開発会社、あるいは海外のゲーム会社に挑戦する人も出てきて居ますし、
「UEを覚えたことで人生が変わりました」と言ってくださる人もいらっしゃいます。
今後もそういった、若者が人生を切り開く上でのツールとして使っていただける事例が増える事を楽しみにしています。
ありがとうございます。
それでは次に2017-18年のゲーム業界振り返りや日本のeスポーツについてのインタビューに移らせていただきます。
▶︎続き:2017-18年のゲーム業界振り返りや日本のeスポーツについてのインタビュー
今年のUnreal Fest Eastについて

インタビューの合間に毎年EpicGames主催で開催されている大規模勉強会「Unreal Fest」についてもお話いただけた。
河崎氏によると、今年は「オクトパストラベラー」や「ヒロアカOne’s Justice」、スクエア・エニックスのアーケードゲーム「星と翼のパラドクス」などのお話が企画されているほか、
会場の三つの部屋のうち一部屋はノンゲーム系のお話をずっとする予定で、ゲーム系・ノンゲーム系のどちらでも楽しんでいただけるようになっているとのこと。
「内容に関してはかなり実践的なことから初心者向けのものまでいろいろあるので、これからUEの勉強を始める人も気兼ねなく参加してほしい」と河崎氏は笑顔で仰っていた。
▶︎Unreal Fest 2018の詳細・参加はこちら(参加費無料)




















