最初に作ったのは分厚い「世界観資料」
——ここからは『神箱』についてお伺いしたいと思います。プロジェクト発足の経緯は、「新規IPを生み出す」というミッションの中で、「新たな日本のRPGを」というテーマだったとお伺いしました。
神崎氏:
そうですね、グラビティグループは「RPGの強い会社」というイメージがあるので、元々はパズルRPGの制作を見据えて発足しました。最初はパズルが軸としてあって、もう1つ「JRPGらしさを出して欲しい」というオーダーがありまして。
そこで数々のRPGを分析すると、世界観考証がしっかりされているため、プロジェクト発足時にまず分厚い設定資料集を作ったんです。
石井氏:
世界観資料をもとに開発を進められたので、意思を統一して制作に当たることができました。『神箱』はボリューム感のあるゲームなんですが、この数年で作れた理由としてはそこが1番大きいと思います。
迷ったらその設定資料を見れば、「こういう世界観だから、これは当然こうだ」と分かるので。
——なるほど、世界観資料の存在がスムーズな開発に繋がったのですね。それでは、本作の魅力やシステムなどについても簡単にご紹介いただけますでしょうか。
神崎氏:
本作はプレイヤーが修復者となって、バラバラに崩壊した世界を直すことがテーマとなっています。例えば勇者がいたとしても、世界が崩壊していて先に進めないので、そのままではラスボスがいる場所には行けないんです。
だから修復者がまず世界を修復することで、冒険が始まる。ここが今までに無いものを提供する重要なキーワードになっています。
世界の修復はパズルを解くことで行います。パズルは色合わせのシステムとなっていて、各色はマナと呼ばれる火、水、土、風の4属性を表しています。
▲パズルを消していく際の手触りやエフェクトは爽快感抜群。
そしてバトルでは修復者は戦いません。ただマナを味方に付与するという特別な力があるので、味方が必殺技を出せるようにする重要な役割を担います。
フィールドに関してはマス上のエリアを進んだ際にマップが絵本のように開く形式となっています。この演出は今井さんがうまく作ってくれました。
本作は「ワールドクラフトRPG」と題しており、開いたマップで様々な建造物などをクラフトできる。ここも本作の魅力です。
石井氏:
本当に様々な要素が入っているタイトルなのですが、ゲーム性について簡単に言うと、自分のリソース管理をしながら拠点を軸に新たな未開拓地を冒険して、そこで出会う仲間や開放されるシナリオを進めていくことで世界を冒険する内容となっています。
「全員主人公級」の魅力的な仲間達
——バトルで活躍する仲間達も、魅力的なキャラクターが揃っている印象ですね。
石井氏:
本作は修復者が旅をしていく中で新たな仲間と出会っていくのですが、そのキャラクター達に様々なシナリオがあるんです。出会う仲間達は全員、主人公級の背景を持っています。
▲バトル中、修復者はマナを味方に付与してサポート
続編が作られることになれば、本作とは全く異なるキャラクター達を仲間にして別のシナリオを書くこともできる。新しい国が登場して、そこで全く違うシナリオが始まるといった展開も考えられます。
神崎氏:
実は、シナリオやルールブックはテーブルトークRPGなどを手掛けられている菊池たけし先生に作っていただいたんです。ルールブック、背景資料がないことには先に進めないと。
※菊池たけし氏 / 代表作に『ナイトウィザード』『アリアンロッドRPG』など。テレビアニメのシリーズ構成・脚本なども務める。本作では脚本・世界設定を担当。
——各キャラクターのストーリーにも作品としてのメッセージなどが込められているのでしょうか?
神崎氏:
込めているメッセージはキャラクターによって変わります。修復者と出会う人々は、バラバラになった地方から集まってきた人々です。
例えば、『神箱』で主人公たちが旅する大陸は、南の国では戦争が絶えず砂漠地帯が多くて水問題があったり、西の国は経済大国だったものの世界の崩壊の影響によって貧困が生まれていたりします。各国や各地方の事情や背景があって、伝わるメッセージが違う。
現実世界で起きている国境や紛争の問題のような大きなテーマをモチーフとしている部分もあるので、そこも受け取っていただきたいです。
▲キャンプ画面では装備変更や仲間たちとの会話などが可能
ーーそれでは、開発におけるこだわりポイントをお伺いできますでしょうか。
石井氏:
こだわりポイントとしては「6大システム」です。バトル、パズル、ダンジョン、マップクラフト、武器クラフト、交易の6つがありますが、これら全てを内包したゲームは中々無いかなと。
その他、シナリオの量は他のオープンワールド系のゲームとおそらく一線を画す位の量を作成しているので、そのボリュームもこだわりポイントだと思っております。
▲ダンジョン探索中の画面
神崎氏:
実はサブシナリオの執筆は全てライトノベルの作家さんにお願いしているんです。キャラクターごとに書いている作家さんが全て違います。
例えば、人気アニメ『リコリスコイル』の原案を手掛けたアサウラさんに書いていただいたシナリオもあって、各キャラクターのエピソードに注力していただくために、それぞれ専任の作家さんを立てました。そこもこだわりの一つです。
※アサウラ氏 / 小説家・脚本家・漫画原作者。代表作に小説『ベン・トー』シリーズなど。アニメ『リコリス・リコイル』の原案なども務める。
石井氏:
他には、作物と季節感のこだわりもあります。本作では気温データとマップが紐づいておりまして、採れるものが変わります。畑を作ったら採れるものも変わっていったり、鉱夫小屋だと、取れる石もマスの種類や地域によって変わっていたり。
その素材を集めつつ組み合わせてオリジナルの武器を作る遊びが可能になっていますね。
石井氏:
ただ、その気候データなどは細かすぎて世界観資料で書ききれないんです。なのでゲーム内での落とし込み方やマップでの表現に関しては、今井さんと相談しながら私の方で作りました。
ただ、今井さんは世界観の考証にすごくこだわられる方なので、作っていく中で「何でここにこの山があるの」「どうしてこの島ができたの」と質問をいただきながら、一つ一つ資料化しつつ進めました。
神崎氏:
火山隆起でできた山なのか、大陸分断系の島なのかといった部分ですね。だとすると、ここでの鉱物の出来方はこうなる、とか。一つ一つ結論付けてこのマップ表現になっています。
それによって、その地域に暮らす人々がどういう生活をしているのかも決まる。着るもの1つとっても全て細かく決めています。
2D素材を全て3D化…開発中の大変更
——これだけ作品内の要素が多いと、開発時の苦労も多かったのではないでしょうか?
石井氏:
本作では様々なシステムが入っておりまして、それらをどうプレイヤーがスムーズにプレイ出来るように落とし込んでいくかが大変でしたね。
ただ、冒頭でも話した通り世界観資料があったので、開発メンバーはそれを読み込みながらしっかりとブレなく作っていくことが出来ました。
神崎氏:
開発の中で、機能の追加などが大量にあったんです。
『神箱』についても元々はスマートフォン向けタイトルとして作っていたのですが、途中でコンシューマー向けに変更したため、舵切りは大変でした。
当時、東京ゲームショウにPC向けタイトルとしてプレイアブルで出展してみたんですが、PlayStationやNintendo Switchでリリースしないのかという話をいただき、最終的に現在のマルチプラットフォームで展開する形となりました。
石井氏:
元々このゲームは2Dのマップ上に自分の拠点を作って冒険していく簡素な作りだったんですが、1年半ほど前から話がどんどん広がり、コンシューマーに移行するタイミングで、2D素材で作っていた建築物などのオブジェクトを全て3D化しようと。
2Dの時点でも100個ぐらいの建物は作っていたんです。それを全て3D化したので、アセットの作り替えで時間がかかりました。正直1番大変なところでしたね…(笑)
▲2Dから3Dに全て作り替えていったというオブジェクト
神崎氏:
さらに言うと、元々フィールドは今の3分の1だったんです。それが最終的にオープンワールドゲームに匹敵するくらいの広さになってしまいました…(笑)
——それは凄まじいですね…。それにしても、後からどんどん展開が広がっていったという流れで言うと、『東京サイコデミック』とも近い気がします。
神崎氏:
そうですね。ただ『東京サイコデミック』はアドベンチャーゲームという想定だったので、できることは限られていました。
一方で『神箱』に関しては、階段式に機能が積み上がっていきました。だからこそ開発で苦労した部分も沢山ありました。
ちなみに、以前の体験版ではフィールドに対してやることが少ない状態だったのですが、製品版では石井が頑張ってくれて様々なサブクエストやクエストを大幅に増やしてくれています。
また6月にアップデートした体験版も製品版に近い体験ができるようになっています。
▲フィールドは未踏のエリアに足を踏み入れることで広がっていく
石井氏:
その結果、今はクエストが300個程度ありますね。サブクエストもどこを歩いてても途中で発生する位まで増えているので、探索していて飽きることは無いと思います。
神崎氏:
プレイ時間についても、体験版は1~2時間程度で終わるのですが、 製品版ではメインの始まりの大地に行くまでに20時間程度かかると思います。
そして本作ではメインシナリオがあって、重要なシーンパートではCGのアニメーションが始まるようになっているのですが、そこに至るまでもかなり時間がかかります…(笑)。
石井氏:
メインシナリオのルートがあって、そこだけをプレイしていけばもっと早く辿り着くはずです。ただ、サブクエストがあり過ぎて、全部を順番通りにプレイしていくと60時間程度かかってしまう想定ですね。
神崎氏:
60時間と聞くととんでもないですが、あっという間に時間が溶けるはずです(笑)
それに1回のゲーム性が軽いんです。1本のクエストが基本的に数分で終わるので、新たな土地でクエストを終えたら、また次の依頼が見えるような形になっています。
小さな子どものプレイに手応え
——ゲームの完成が近づく中で、作品に手応えを得られた部分などはありましたでしょうか?
石井氏:
先程の話に出たTGSなどのイベントで出展していると、ビジネスデーで開発者の方やクリエイターの方々に、「これどうやって作ってるの」「どうやって管理しているの」と、技術的な面で驚かれたり、「こういうギミックが仕掛けられているのが面白い」と称賛していただけたりした際には手応えを感じました。
神崎氏:
そして我々が一番衝撃を受けて嬉しかったのが、小さいお子さんが遊んでくれたことです。5、6歳の子が。
子どもには少し難しいかなと思っていたのですが、問題なくプレイしてくれて。そこが一番の手応えです。
また、CEROでも全年齢対象である「A」のレーティングをいただけましたので、小さいお子さんも遊べるゲームになっていると思います。
——確かに、フィールドのマップが開いていく演出やパズルの消えていく感覚など、触っているだけで気持ちいいという部分が子どもには特に響きそうですよね。
神崎氏:
私が幼少期で経験したゲームは『ドラゴンクエスト』でしたから。そういった形で、今の子ども達にも届けられると良いなと。
少し大人びた小学生がこのゲームを触って、「いやいや今の時代、RPGは『神箱』だけど」っていう風にプレイしてくれたら良いなと勝手に妄想してます(笑)
——最後に、読者に対するメッセージをお願いします。
神崎氏:
『東京サイデミック』につきましては、今までにない体験ができるアドベンチャーゲームとなっていますので、 謎解き好き、探偵モノやミステリー好き、都市伝説好きな方に是非とも遊んでいただきたいです。
『神箱』に関しては、ご友人やご家族皆で遊んでもらいたいですね。長時間プレイするゲームで1人プレイなんですけど、 お父さんやお母さん、兄弟みんなでクリアするようなゲームになっても良いのかなと思っています。
石井氏:
『東京サイコデミック』に関しては、シナリオのテーマとして「欧米の探偵ドラマのような雰囲気」をちょっと意識して今井さんが作られている部分もあります。ですので、欧米の探偵ドラマ好きの方にも届いて欲しいですし、ゲーム性だけでなく、ドラマ性も楽しんでいただきたいです。
▲『東京サイコデミック』では情感豊かな画作りにも注目
石井氏:
『神箱』につきましては本当に自由に冒険していただいて、なぜこの大陸ができたのかとか、世界観の根源まで探せるようなゲームになっているので、自由に遊んでいただけたらなと思います。
お二方の人生を変えたゲーム
——最後に今回のインタビューとは関係の無い部分にはなりますが、お二方にとって「人生を変えたゲーム」などあれば、宜しければお伺いしたいです。
石井氏:
私は『ゼルダの伝説 時のオカリナ』が自分の人生を変えたと思います。まさに冒険を体現した遊びで。
当時、NINTENDO64の中でマップの広さは限られていたんですけれども、それが一つのアイテムを手に入れることで繰り返し広がっていくという遊びになっていて。
本当に面白く、かつシナリオもわかりやすく、どの年齢層でも楽しめるゲームで、本当に神懸かった作品だと思っています。
あの作品を超えるゲームを人生の中で作れたらと思っていますし、この作品がゲームクリエイターを目指したきっかけですね。
神崎氏:
私の方は一つに絞れないんですけれども、年代別の順番で言うと、まず衝撃だったのが、『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』。私が人生を変えられたなっていうのは、実はアドベンチャーゲームから。
そしてその後にRPGで言うと、『MOTHER』なんですよ。当時、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』がある中で、リアルなアメリカの村田舎を描いたロールプレイングで、魔法ではなくあえて「PSI」という超能力を使っていて。糸井重里さんのこだわりを感じながらプレイできたゲームというのが幼少期ですね。
その後に人生の転換期となったのが『リッジレーサー』。ハイスピード感とサウンドに圧倒されて、そこで世界が変わりました。
石井氏:
何だかゲームの歴史を味わうような(笑)
神崎氏:
そしてその後に大きかったのは、『METAL GEAR SOLID 2』ですね。あとは最近で言うと一番ゲームとして影響を受けたのが、Tom Clancyシリーズの『The Division』。ニューヨークを舞台にした世界観を含めて、ものすごく影響を受けました。
——なるほど、やはり特定の作品というよりも数多くのタイトルから影響を受けられているのですね。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!
今回、お二方にお話を伺って心底感じられたのが、ゲームを制作する上での圧倒的なこだわり。
『東京サイコデミック』における徹底的なリアリティの追求であったり、『神箱』における緻密な世界観設定や考証であったり。
インタビューをさせていただいた中で、世界観について何気なく尋ねたような質問でも、お二方とも細かい設定などをスラスラと淀みなく話されていて、完璧に作品の世界観が頭の中に入っているのだと改めて驚かされた。
ここまでの熱量とこだわりをもって制作された両タイトル、僭越ながら筆者としても少しでも多くの方に手にとって遊んでいただきたい。
また、「世の中にない面白いものを出していく」をスローガンとして掲げるグラビティゲームアライズから、今後どのような魅力的な新作タイトルが世に生み出されていくのか、一ゲームファンとしても非常に楽しみであり、注目していきたい。
本記事後編では、グラビティゲームアライズ取締役の五嶋裕士氏へのインタビューを掲載。グループ全体の展望や今後のGGAの戦略などについて掘り下げて迫っていく。
▼後編はこちら
『東京サイコデミック』/『神箱』基本情報
タイトル名 | 東京サイコデミック |
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発売日 | 2024年5月30日 |
ジャンル | シミュレーションゲーム |
価格 | 5,940円(税込) |
対応機種 | PS5,PS4,Nintendo Swich,steam |
会社 | グラビティゲームアライズ |
公式サイト | 東京サイコデミック |
公式Twitter | 【公式】東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿 |
タイトル名 | 神箱 |
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発売日 | 2024年8月29日 |
ジャンル | ワールドクラフトRPG |
価格 | 6,380円(税込) |
対応機種 | PS5,PS4,Nintendo Swich,steam |
会社 | グラビティゲームアライズ |
公式サイト | 神箱 |
公式Twitter | 【公式】神箱- Mythology of Cube – (KAMiBAKO) |