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2023年7月に突如発表された「TBS GAMES」というプロジェクト。TBSテレビがゲーム事業に本格参入していく宣言でもあり、ゲーム業界でも大きな話題となっていたことは記憶に新しい。

先日の3月7日には、TBS GAMESが本格的に取り組んだ最初のタイトルとなるNintendo Switch用ソフト『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』(以下、『超・脱出島』)がリリースされた。

TBSの人気番組『アイ・アム・冒険少年』をゲーム化したタイトルで、番組で定番となっている無人島の探索や火起こし、モリ突きといったサバイバルアクションを行いつつ、最終的にイカダでの無人島からの脱出を目指していく内容となっている。

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『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』公式サイト


そんな中、今回はTBSテレビ特任執行役員・ゲーム事業責任者としてTBS GAMESの舵取りを務める蛭田健司氏と、『超・脱出島』の開発を務めた株式会社スリーリングスより、代表取締役の三輪賀一氏、本作のディレクターを務めた網野雄太氏、秘書の天野佑美氏にインタビューする機会を得られた。

TBS GAMESというプロジェクトについて蛭田氏に伺う内容を前編、『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』についてスリーリングスの御三方を交えて伺う内容を後編としてお届けする。

TBS GAMESの裏側やゲームの開発秘話に加え、最後には思わぬ熱いエピソードの数々も飛び出しているので、是非最後まで目を通して欲しい。

▼後編はこちら

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蛭田健司 / Kenji Hiruta

TBSテレビ特任執行役員・ゲーム事業責任者/株式会社AKALI 代表取締役/総務省 地域力創造アドバイザー/NPO法人国際ゲーム開発者協会日本理事

『サクラ大戦』シリーズ、『真・三國無双』シリーズ等の開発に携わり、技術責任者や海外スタジオの現地責任者などを歴任。その後、ヤフーにてゲーム部門長、事業戦略室エグゼクティブプロデューサー、グループ会社の執行役員CTO、人材開発室長などを経験。上場企業である㈱エディア顧問、トヨタ(豊田通商)グループ㈱ISAOアドバイザー、富山県新分野産業育成事業の総合戦略アドバイザー等も務める。

プロジェクト発足の経緯

——本日は宜しくお願い致します。それでは早速ですが、まず簡単にTBS GAMESというプロジェクトについてお伺いできますでしょうか。

蛭田氏:
はい、まずTBSグループとして、「VISION2030」という中期計画を出しておりまして。その中で、2030年に向けてどういったところに力を入れていくかというところが定められているんですけれども、やはり我々というのは、単なる放送事業者ではなくてコンテンツ企業であると。

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TBSグループ VISION2030

一方で、放送用のコンテンツを作っていくだけでは、将来的に拡大が難しいというところもあるんです。ですので、そういった放送の枠を超えてコンテンツを広げていこうという中期計画の方針が、今回のプロジェクトの前提としてあります。

——なるほど、まず会社としての大きなビジョンの下に展開されているプロジェクトであると。

蛭田氏:
そしてコンテンツの拡大にあたっては「EDGE戦略(Expand Digital Global Experience)」として重点分野を三つ掲げておりまして、配信なども含めたデジタル分野と海外展開、そしてライブ体験などのリアルエクスペリエンスになります。

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TBSグループ VISION2030

まずデジタル分野に関しては、当然ながらゲームはデジタルコンテンツですので重要です。

海外分野に関して言うと、現代においてゲームはどのプラットフォームで作っても、すぐ海外で売れるようになっています。スマートフォンはもちろんですし、プレイステーションもXboxもNintendo Switchも、あるいは、PCゲームプラットフォームのSteamでも、すぐ海外に売れるように環境が整っています。

そして最後のエクスペリエンス分野に関しては、例えばリアル脱出ゲームみたいなものも事業範囲ではあるんですけれども、やっぱりこれからはeスポーツだと。スポーツ観戦のようにeスポーツを観戦して皆様に楽しんでいただくような文化って、海外の盛り上がりを見ていると日本でも広がっていくと思っておりまして。

そう考えると、それら三つの戦略分野の全てにおいてゲームは重要ですので、TBS GAMESというゲーム事業が発足したという流れになります。

過去のゲーム事業との違い

——過去にゲーム系のプロジェクトなどは展開されていなかったのでしょうか?

蛭田氏:
番組単位でゲーム化されていた事例はあったんですが、それは今回のTBS GAMESとは全く別軸なんです。

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TBS GAMES 公式サイト

過去にはゲーム会社様が主体になって、番組のIPをお貸ししてゲームを作っていただくという形が多かったのですが、今回の取り組みはそうではなくて、TBSとしても開発費、宣伝費などの総事業費をしっかりと出資して、ゲーム会社様と協業させていただく形になっておりまして。

そうするとTBSとしてもリスクもありますし、一方で実入りも大きく期待できるという点で、グループ全体で自分達のゲームを盛り上げていくことができる。

——なるほど、グループ全体で取り組むという形になっているのですね。

蛭田氏:
今回の『超・脱出島』は、TBS GAMESが発足してから初めて本格的に取り組んだタイトルだったんですけれども、TBSの放送でも “情報番組ジャック”みたいな形でサポートをいただきまして。

朝から『THE TIME,』『ラヴィット!』『ゴゴスマ』『ひるおび』などの情報番組に取り上げていただく形でプロモーションさせていただきまして。

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『ラヴィット!』公式サイト

その規模で情報を露出するのは、新作映画や新番組を出す時くらいなんですね。TBSの良いところは、当然、地上波放送はあるんですけども、ドラマやアニメという展開もあれば、映画、舞台などもやっているので、そういった横展開が得意なグループであるということ。

そういった社を挙げての、新作映画や新作舞台レベルの露出をすることが今回はできました。これまでのライセンス料だけをいただくようなスタイルとは異なり、本気でゲームを作って本気で売っていくというのがTBS GAMESの取り組みになります。

ちなみにTBS GAMESについてですが、そういった名前の会社がある訳ではなくて、これは事業ブランド名なんです。よく間違えられるのですが(笑)

ゲーム事業への全社的な取り組み

——それにしても、会社の上層部からも本気でゲーム事業に取り組むという意気込みが伺えます。

蛭田氏:
そうですね。私もTBSにジョインするにあたって、入社前に佐々木社長※と面談しまして、その際に「ゲーム事業をやり切る」とはっきりと言って下さって。今も、グループ全体としてゲーム事業に取り組むぞという思いを一緒に発信していただいています。

※佐々木卓氏 / 株式会社TBSホールディングス・株式会社TBSテレビ代表取締役社長

——キー局では、ここまで全社的に力を注いでゲーム事業に取り組むのはTBSが初になりますでしょうか?

蛭田氏:
そうですね、今回の我々のように大きな出資を伴う形でゲームコンテンツを作って、グループ全体で売っていくような本格的な取り組みというのは初だと思います。
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TBS GAMES ロゴ|TBSテレビ

——逆に今までゲームという領域に進出が難しかった理由などはあるのでしょうか。

蛭田氏:
やはりゲーム事業に詳しい専門家がいなくて。TBSグループの中でも、ゲーム業界から転職されてきた方ってほとんどいないんです。

ゲーム業界ってずっと成長を続けているので慢性的な人手不足なのですが、そういった環境でわざわざテレビ局に来てゲームを作ろうという方って、ほぼいないですよね。人材面でもこれからどんどん拡充していかないとと思っています。

——そんな中で、蛭田さんにはどういった流れでプロジェクトのお話が来たのでしょうか?

蛭田氏:
私の場合はいわゆるヘッドハントなんですけれども。ある日、仲介会社様からお話をいただきまして、「ゲーム事業をやりたいけれども、どうやって良いか分からないので教えて欲しい」とお声がけいただいたのが最初ですね。そこで丁寧にコンサルしているうちにTBSをご紹介いただき、是非一緒に、という話になりました。

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私自身は現在でも様々な立場を兼務しておりまして、ゲーム業界への恩返しをしたいというモチベーションでやっているんですけれども。ゲーム業界にとって嬉しいことって何だろうと考えた時に、ゲーム業界そのものが広がっていくことだと思ったんですよ。

そのためには、他業種の色々な会社様がゲームに興味を持っていただいて、それぞれの強みを生かしたゲーム事業に取り組んでいっていただけると、どんどん広がっていく。

だから、茨の道ではあるんですけれども、自分の挑戦としてTBSのゲーム事業を引き受けたというところですね。

——なるほど、恩返しという気持ちなのですね。これまでのキャリアに対するということでしょうか?

蛭田氏:
実はそれよりももっと前で、私は子供の頃に喘息で、重症患者だったんですね。何か月も療養所に入ってしまうような状態で、外で自由に遊んだりすることが難しかったんです。それがゲームの世界でだったら友達と一緒に遊ぶことが出来て、救いになったんです。

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そういったところから、自分もゲームクリエイターになって。最初は良いゲームを作りたいという思いだったんですけれども、キャリアを重ねていく中で様々な良いプロジェクトに参加できたのかなと思っておりまして。

そこからさらに、ゲーム単体だけでなくもっと業界全体のこと、事業全体のことを考えていきたいという思いも生まれて、現場のゲームクリエイターでありながら事業もやっているという形になります。

ただ色々とやっているようですけど、全てゲームに関することではあります。自分のためには中々頑張れないですけど、誰かのためとかゲーム業界のためにといったところであれば頑張れるという。そこが原動力ですね。

IPの”入口”と”出口”としてのゲーム

——TBS GAMESの今後についてもお伺いできればと思いますが、ゲームを作っていく上での方針などはあるのでしょうか?

蛭田氏:
TBS GAMESとしては、IPの”出口”としてのゲームと、“入口”としてのゲームというのを意識しています。まず番組IPの”出口”として、例えばアニメ化やドラマ化、映画化などの一つとしてゲーム化というIP活用をしっかりやりましょうと。

それと同時に、『ポケットモンスター』や『ゼルダの伝説』のようなIPは、ゲーム発で世界的なIPになっていますよね。IPの”入口”としてゲームで大ヒット作品をオリジナルで作って、それをアニメ化したり映画化したりというような展開も考えています。その両方に取り組んでいく形になりますね。

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——オリジナルIPについて、積極的に取り組んでいきたいジャンルなどはありますでしょうか?

蛭田氏:
ジャンルについては基本的に制限などを設けず取り組んでいくつもりです。ただ一つあるのは、放送に載らないようなコンテンツ、例えば成人向けの年齢制限があるものですとか、そういったものはやらない方針です。

TBSグループらしさというものを考えると、今回の『超・脱出島』はピッタリなタイトルだと思います。

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『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』公式サイト

——TBSグループらしさと言うと、ファミリー向けのようなイメージになるのでしょうか?

蛭田氏:
ファミリー向けが中心ということではないのですが、そういった視点も大切にしています。TBSでは、ここのところ子供向けコンテンツやアニメが若干手薄になっていたので、グループ全体で強化しているところです。放送枠を増やすとか、そういった力を入れている領域を一緒にゲームでもやっていくというのは、是非取り組んでいきたいです。

プラットフォームの制限も無くて、コンテンツに適したプラットフォームで出していければと考えています。今回の『超・脱出島』で言うと、ジョイコンを振って遊ぶようなゲームですので、Nintendo Switchでという形になりました。

TBS GAMESの最終的な目的地

——TBS GAMESの今後数年のビジョンや最終的な目的地などがあれば伺いたいです。

蛭田氏:
最初にお話ししました「VISION2030」という戦略がありますので、ゲーム事業もそれに合わせてどんどん拡大していくというのがまず一つです。

あとは、海外でTBSグループの存在感をより高めていくということ。かつての『風雲!たけし城』や『SASUKE』など、世界でもヒットした番組もあるんですけれども、中々数を出していくのが難しい部分もありまして。そう考えると、やはりゲームで知名度を上げていくというのも大事になっていくのかなと思っています。

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『SASUKE』公式サイト

グローバルな視点で考えますと、例えば今回の『超・脱出島』のようなタイトルは、番組が放送されている日本では興味を持っていただけるのですが、海外で出しても中々その強みが活きないという側面があります。

海外で売っていくとしたら、オリジナルIPで攻めていくのが妥当なのかなと考えています。

また、「ドラマのTBS」といった評価をされるような素晴らしいクリエイター達と一緒にコンテンツを作れるグループでもあるので、そういったメンバーが本気でゲームを作ったらどうなるんだろうっていうワクワク感もあります。

——最後に、読者に向けたメッセージなどはありますでしょうか?

蛭田氏:
「まだ見ぬ最高の“時”をゲームで」というキャッチコピーをTBS GAMESの公式サイトでは掲げているんですけれども、この「まだ見ぬ最高の“時”」というワードには二つの意味を込めておりまして。

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TBS GAMES 公式サイト

まず一つは、「まだ見ぬ”コンテンツの面白さ”」。これまでになかったような面白さというのは絶対に入れ込んでいかなければと思ってまして、現代では多くのゲーム会社様が面白いゲームをどんどん出されている中で、それらの真似や劣化版を出しても意味がないですから。

そうではなくて、ちゃんと我々のゲームならではの新しい面白さというものを実現していこうと思っています。

そしてもう一つが、「まだ見ぬ”人”」ですね。TBSグループがまだコンテンツを届けられていない人に、最高の時を届けるという意味が込められています。

それは主に海外の人達になると思うのですが、そういった方々にもゲームならリーチできるんじゃないかと思っておりますので、「まだ見ぬ人にまだ見ぬ面白さを届けていきたい」というメッセージになりますね。

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ーー今回の蛭田氏へのインタビューでは、TBS GAMESというプロジェクトの成り立ちから今後の展望までを余すことなく伺うことができた。

インタビュー内でも言及された”情報番組ジャック”など、自社で巨大なメディアインフラを持っているが故に可能な取り組みなどは非常に興味深い。

日本屈指の影響力を持つTBSグループが本気で取り組むゲーム事業。今後どのような展開を見せていくのか、一ゲームファンとしても目が離せない。

そして本記事後編では、『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』の開発を担当した株式会社スリーリングスの御三方を交えてゲーム開発の裏側に迫っていく。

▼後編はこちら

『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』基本情報

タイトル名 アイ・アム・冒険少年 超・脱出島
発売日 2024年3月7日
ジャンル サバイバルアクション
価格 2480円
対応機種 Nintendo Swich
会社 株式会社TBSテレビ
公式サイト アイ・アム・冒険少年 超・脱出島
公式Twitter アイ・アム・冒険少年【公式】