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2024年5月30日にリアル科学捜査シミュレーションゲーム『東京サイコデミック』を、8月29日にワールドクラフトRPG『神箱』を日本先行リリース予定のグラビティゲームアライズ(以下、GGA)。

世界各地に支社を持つグラビティグループの日本支社として2019年に設立され、現在ではコンシューマーゲーム、モバイルゲームの企画開発や海外タイトルの国内展開、インディーゲームの発掘など非常に幅広い領域で事業に取り組んでいる。

そして今回は『東京サイコデミック』『神箱』プロデューサーの神崎喜多氏と、アシスタントプロデューサーの石井政仁氏にインタビューを行う機会を得られた。

両タイトルの特徴、ゲームとしての魅力の紹介から開発時の裏話まで、濃密な内容のオンパレードとなっているので、是非最後まで楽しんでいただきたい。

また、本記事後編では、グラビティゲームアライズ取締役の五嶋裕士氏へのインタビューを掲載。グラビティグループ全体とGGAの戦略などについて掘り下げた内容となっているので、そちらも是非チェックしていただきたい。

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▼後編はこちら

従来のアドベンチャーと異なる「科学捜査シミュレーション」

——本日は宜しくお願い致します。まず、 お二方の会社におけるポジションや役割などをお伺いできますでしょうか。

神崎氏:
はい、私はプロデューサーとして、原案や世界観、イラストなど企画立案から制作全般を統括しています。

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プロデューサーの神崎喜多氏


石井はアシスタントプロデューサーとして、現場や開発スケジュールの管理を行っています。

あとは今回、両作品に今井秋芳氏※がディレクターとして入っていただいているのですが、『東京サイコデミック』では、脚本、演出、ゲームデザインを担当いただいてます。

※今井秋芳氏 / 『東京魔人學園伝奇』シリーズや『九龍妖魔學園紀』などを代表作に持つゲームクリエイター。『東京サイコデミック』では脚本・演出・ゲームデザインなどを、『神箱』では主にゲームデザインなどを担当。

——ありがとうございます。それでは、『東京サイコデミック』の簡単なご紹介をお願いします。

石井氏:
『東京サイコデミック』は、実写映像を使ったリアルな科学捜査シミュレーションゲームです。プレイヤー自身が監視カメラや現場写真などの映像を分析しながら、証拠物を集めつつ、謎を解いていく内容となっています。

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アシスタントプロデューサーの石井政仁氏


神崎氏:
今回はアドベンチャーゲームでありつつも、あえて科学捜査シミュレーションっていう言葉を使わせていただいております。

なぜ科学捜査シミュレーションかと言うと、多くのアドベンチャーゲームは証拠物を発見した時点で物語が進んでいくのですが、このゲームでは証拠が出てきて推論をしても、合っているかどうかが最後まで分からないんです。

見つけた証拠が正しいものかどうか裏付けを取り、エビデンスボード※に貼って整理しながら物語を進めていく。 そういった過程をプレイヤーが体験できるという点で、科学捜査シミュレーションという言葉を使わせていただいてます。

※本作に登場する、事件の証拠や容疑者などの情報をボードにまとめて状況を整理する機能

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体験版でも「人体自然発火事件の火元は?」といった問題があったと思うのですが、タバコだったり吸い殻だったり、もしかしたらそれ以外のものが発火しているんじゃないか?といった状況証拠が複数あって、試行錯誤しながら進んでいく形になります。

スローガンは「世の中にないものを作る」

——なるほど、従来のアドベンチャーゲームと異なる部分ですね。それでは、本作のプロジェクトが発足した経緯をお伺いできますでしょうか。

神崎氏:
グラビティグループではこれまでオンラインゲームを中心に事業を拡大してきたのですが、日本支社であるグラビティゲームアライズは、それに続く新規IPを立ち上げることを大きなミッションとして持っています。私の事業部は新規IPを生み出すため、日本を戦略拠点として新たなことに日々挑戦しています。

そこで企画として、「よりリアルに感じる世界」で「新しい体験ができるアドベンチャーゲーム」として『東京サイコデミック』が、「さまざまな楽しみ方ができる新しい日本のRPG」として『神箱』が立ち上がりました。

「東京サイコデミック」の企画当初、市場では謎解きやマーダーミステリー、リアル脱出ゲームなどが流行っていたので、本格的な謎解きミステリーゲームを作ることになりました。

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▲プレイヤーは監視カメラ映像などから証拠となる情報を集めていく

——ちなみに、『東京サイコデミック』を制作する上でテーマなどは設定されていたのでしょうか?

神崎氏:
テーマで言うと、「ゲーム性」「世界観」の2つに分かれると思います。

ゲーム性はすごく単純で、我々の目指している「世の中にないものを作る」を基本の考えとして、アドベンチャーゲームではありつつもフラグ進行型でないゲームとして、自分の推理が合っているかどうか分からない中で根拠を探りながら進めていく本格的なシミュレーションを目指しました。

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そして本作の世界観のテーマで言うと、多くの方にとって興味関心があるものという点で、コロナパンデミックをひとつの題材にしています。

ただ、あくまでIFの世界なので現実とは違いますが、本作では「東京都市封鎖で日本では大変なことが起きていた」とし、その上で実写を扱うことでよりリアリティを感じる世界観になっていると思います。

——確かに、本作の特徴で言うとまずリアルな実写映像が思い浮かぶと思います。実写映像はどのように撮影されたのでしょうか?

神崎氏:
実写映像に関しては、撮影ディレクターの塚田氏(日本ケーブルテレビジョン)にお願いしています。また、撮影現場には私をはじめ開発メンバーも一部入りながら確認をしていました。

現場写真については撮影ディレクターが撮ったものを、ディレクターの今井さんの意見を受けつつゲームに落とし込んでいった形です。写真の一部は私や今井さんが撮影したものもあります。

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——やはり実写映像や写真の撮影では苦労がありましたか?

神崎氏:
本来であれば、まずゲームのストーリーを作って、その後ロケーションマップをきちんと引いていくのが理想だったのですが、開発スケジュールの都合もあり、今回はその逆で進めることになったので苦労しました(笑)。

撮影では、実際にテレビドラマや映画を撮られているプロフェッショナルの方々に撮っていただいたのですが、その映像がゲームとして辻褄が合わなくってしまって使えなかった場面もあり、もどかしさがありました。

勿論ゲームが主なんですが、実写映像を扱っているため、次回作ではうまくあわせていくことが課題だと考えています。

——ということは次回作、続編の制作なども既に動かれているのでしょうか?

神崎氏:
まだこれからではあるのですが、まずは反省箇所を洗い出しているところです。なかなか一筋縄では行きませんでした。

ただ、今井さんが作中にうまく過去を匂わす話などを組み込んでいて、キャラクターたちの過去背景があって、今の『東京サイコデミック』の時間軸があって、 次の展開も残した形となっています。

キャラクターに命を吹き込む「ボイス」へのこだわり

——今後の展開にも期待が膨らみますね。他にも開発でこだわった部分などがあればお伺いしたいです。

神崎氏:
こだわったポイントは多くて、まず作中の「世界背景」ですが、今作はパンデミックの起きた世界を舞台としていますので、そこをしっかりと表現できているかとか。

次に「キャラクター」。キャラクターと言えど人間ですので、表情やイラストにもかなりこだわっています。

それから「キャラクターボイス」です。 今回はしっかりとイメージ通りの表現をしていただける声優さんを起用させていただきました。この複雑なドラマを表現する上で、贅沢にも私の方で希望を出してオファーさせていただきました。

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実際に収録や音響ディレクションにも立ち会いました。やはり声優さんのボイスや演技で、作品全体の完成度がぐっと底上げされて、 音が入ってからようやくキャラクターが動き出したなと。命を吹き込んでもらう作業にはものすごく力を入れました。

——ボイスについても非常に楽しみですね。先ほど映像撮影に関する苦労のお話がありましたが、開発に関しても苦労された点などありましたでしょうか?

石井氏:
このタイトル自体は「コンパクトでスピーディーで質が高いものを」というオーダーのもと制作を進めていったので、 どうしても開発チームにも迷惑をかけた部分があるんです。開発と撮影とシナリオの3つを同時進行で進めていく形となってしまいまして。

本来であれば、シナリオを最初に完成させて、 シナリオに合わせて開発を行っていく。そしてそこに合わせた映像を撮ってチューニングし、一つの作品に仕上げてくという形が理想なのですが、今回は作品をいち早くお客様にお届けしてIPの認知を広げていくというミッションがありましたので。

ただ、神崎にはディレクターの今井さんと密に連携を取ってもらい、何とか折り合いをつけてもらったことでこの作品が実現できたかなと正直思っております。

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神崎も今井さんも、あと映像ディレクターの塚田さんも、ものすごくこだわりの強い方で。何度も意見を交わしながら擦り合わせていきました。

制作に対しては皆本気なので、カチっとはまるとどんどん進んで行きました。お互いにこだわりを持って仕事に取り組んでいるという熱意がこのプロジェクト、開発の原動力だったと思っています。

作品の説得力を底上げした実写映像

——本作が完成に至って、手応えを得ている部分があればお教えいただきたいです。

神崎氏:
あまり表になっていない部分で言うと、例えばゲームの1番最初に、ジャイアントパンダの赤ちゃんのニュースから映像が繋がっていく場面があるのですが、あそこは塚田さんが説得力のある実写映像を作ってくれました。

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「これって現実にもあったかもしれない…」と思える迫力の実写映像があったからこそ、初動で注目いただけたのではないかと思っています。

シナリオの今井さん、映像の塚田さん、そしてそれを落とし込む開発チームがいたことで、それぞれのこだわりが詰まってこの作品が完成したと思います。

石井氏:
実際、神崎が話した通り、情報初出時の最初の映像への反響があり、狙い通りにユーザーさんたちの心を掴んでくれました。

神崎氏:
タイミングも重要で、本作ではパンデミックのようなテーマを扱う以上、あまり時間はかけられませんでした。

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石井氏:
イベントに出展する度に反響をいただき、ありがたいことに複数の会社様から「うちで出してみませんか」「プラットフォーム数を増やしましょう」といったパッケージ化のお話をいただきまして。

プロジェクトとしても、GGAの新しいタイトルを広げたいという意図もあったので、 スケジュールもそれに合わせて調整を行いました。

また、今作はグローバル展開も行いますが、それも当初は予定していなかったためゲーム側の対応も必要で、開発スケジュールに時間を要することになりました。

そういった関係で発売が2024年になりました。

神崎氏:
グローバル展開を機に、もしかしたら今後は海外向けの企画オーダーが来るかもしれないですが、世の中の事件をモチーフにするという本作のスタイルは変えないつもりです。

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私自身、この『東京サイコデミック』は続けられたら3部作でやりたいと考えています。ただ、その3作の途中や終えてからでは世界情勢もまた変わっていると思うので、その後についてはグローバル準拠で進めるのかどうか、その時にまた考えたいですね。

——なるほど。そう考えると、世界情勢や世相が刻々と変わっていく中で、開発期間のかかるゲームをキャッチーな形で出すというのは中々難しいですね。

神崎氏:
本当に難しいですね……。

今回はコロナ禍のパンデミックという事例がありましたが、次からはどういった世の中になっていくのかある程度予測していかないといけない。現在構想を考えていますが、未来予測というのがものすごく難しいです。

「現実ってそんなにカッコよくない」リアリティの徹底追求

——その他、開発時の裏話や今だから言えるエピソードなどがあればお伺いできますでしょうか。

石井氏:
実写ゲームとしての魅力に繋がる部分でもあるのですが、本作の特徴として、実写映像では役者さんを起用していないんです。

あくまでも事件が起きたであろうその場面の映像が主役。映像は全て監視カメラや撮影された実写映像だけを使っている点が魅力でもあり、本作の1番の特徴です。

例えば体験版に収録されている部分ですと、深夜2時の新宿などで映像を撮らせていただいてるのですが、新宿であれば深夜2時でも少しは人が歩いているだろうと考えましたが、実際に通行人だけを撮るのは難しかったので、社員にも歩いてもらったりしました。

演技ではないのでそこがまたリアルさを増しているのではないかと。

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神崎氏:
石井の言う通り、役者さんを起用してしまうと一人のキャラクターになってしまうんです。IPを作る上で役者を立ててキャラクターとして成立させたいという思いもありましたが、今回のようにあくまで自然な映像にすることで、監視カメラ映像などにリアリティを生み出し、没入感が出るようにしました。

監視カメラ映像に関しては、コンビニや薬局やカフェなど、現実に存在するショップの許可を取って撮影しています。

作り出した映像ではなく、実際の営業中のお店の風景や街の風景をそのまま組み込んでいるんです。映像に出てきている店員さんもそのロケ地で本当に働かれている方で、通常業務をやっていただいてます。

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石井氏:
本来は撮影許可を取るのも難しいのですが、塚田さんのおかげで実現しました。こちらが撮りたい映像に対して最大限に尽力していただいて、実際に撮影できたというのは奇跡的な部分だと思っています。

神崎氏:
従業員の方に「演技した方がいいですか?」と聞かれたりしたのですが、「そのまま業務を続けてください」とお願いしました。

そこが作られた映像になってしまうと、良い演出にはなるのですが、リアリティ不足になってしまう。現実ってそんなにカッコよくないんです。現実を映すということに対して徹底的にこだわりました。

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——確かにゲームプレイをしていても、監視カメラ映像のビデオテープを取ってきて入れる工程など、すごくリアルに再現されていますよね。

神崎氏:
そうですね。例えば「今時ビデオテープ?」と思われる方もいると思うのですが、 これは今井さんが取材したところ、今でも一部ではアナログテープを使っているそうなんです。

なぜかと言うと、劣化しやすいアナログテープだとコピーした場合に証拠が出てくるんです。一方で、デジタルだとコピーしても証拠が残らない。そのため、証拠品はビデオテープなどがまだ使われていたりすると。これもリアリティの追求ですね。

その他、自分が主人公という視点を見せるため、一人称視点であえて歩かせて席につかせたり。本当はショートカット機能をつければゲームとしては成立するのですが。これらは全て今井さんの演出です。

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▲プレイヤーの捜査拠点となる部屋の風景

石井氏:
あとは裏話として一点、本作は一つの事件の証拠物だけでも50種類ほど実装されているのですが、開発当初はそれらの証拠物が一気に送られてきて、そこから謎を解くというシステムだったんです。

ただ、それだけだとプレイヤーがどう証拠を判断して答えを出していくのかが分からなかったので相談した結果、今井さんからのアイデアでエビデンスボードが生まれました。ここが開発の中で一番大きく、生み出すまでに時間がかかった部分ですね。

神崎氏:
元々はもっとハードなゲームだったんです。社内テストを行なった際に、事前に説明があれば「分かる」「面白い」となったんですが、説明や概要が無いと「どう進めればいいのか分からない」という声が上がりました。

そこで何度もテストプレイを行って組み替えを行ったところ、「ここまで説明したら操作がわかる」というタイミングがあって。では、そこまでをチュートリアルにしようと。そのチュートリアルが1章となり、2章からは手探りで進む形となっています。

ある人は警察の資料から読み取り、 ある人は監視映像を見ていく。 証拠が無いからと画像解析から始める人もいると思います。ただ、エビデンスボードに求める答えは1つなので、最終的にどの道筋から辿り着くかという形になっています。

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